<論文> 大学野球部の組織マネジメントに関する基礎的研究 −基本的な組織機能に着目して− A basic study on management of organization in the college baseball team : From the point of view basic organizational function 小野里 真 弓<上付>1)  谷 口 英 規<上付>2)  畑     攻<上付>3)  八 丁 茉莉佳<上付>4) Mayumi ONOZATO, Hidenori TANIGUCHI Osamu HATA and Marika HATCHO Abstract  Management of organization is one of the most important elements for team sports, and concerning to members morale, team morale, and performance. In sports management science area, it is expected that organizational function of the athletic teams would be defined and clarified to attain their objective.  The purpose of the study was to identify organizational function and management in the college baseball team. This study employed a specially designed questionnaire which were consisted of demographics, skill level, object (team and individual), moral and organizational function. Adequate statistical procedure such as factor analysis and multiple regression were applied. The following results were obtained : 1. There were identified that original 7 factors for organizational function in the college baseball team. 2. Some effective management points were suggested according to small groups and member's satisfaction.  Keywords :organizational function, team management, college baseball team T. 緒  言  現代社会において,「組織」という言葉は社会学や経営学をはじめ,様々な分野で用いられ,その定義や概念においても多様な捉え方が挙げられる.青井ら(1978)<上付>1)による概念では,社会学的思考の最も自然な考え方として,組織を集団の一種とみなし,その集団が成立するための条件を述べている.その条件とは,@集団が遂行すべき特定の機能ないし達成すべき目的を明瞭に持っていること,A集団の成員の行動を規制する規範の明瞭度ならびに安定度,B集団内の諸地位,権限の分化と明瞭度があることと定義している.スポーツ分野における競技スポーツ集団は,勝利という共通の目的を持ち,目的達成のために各競技にとって合理的な運動技術や戦術を習得すること,監督やコーチとなる指導者が目的達成への役割を果たすといった条件で成立する「組織」と言える.スポーツマネジメント分野における組織を対象とした研究では,競技スポーツ集団である運動部のマネジメントを課題としてリーダーシップスタイルやモラール(やる気・士気),マチュリティ(成熟度)に焦点を当てた報告を散見することができる.その中で,最も草分け的な研究として挙げられるのが藤田(1980,1981)<上付>3)4)による競技運動クラブを対象にしたリーダーシップ研究であり,競技成績にリーダーシップスタイルが有意に関連していることを明らかにしている.また,品田(1982)<上付>8),鶴山(1994)<上付>11)によるモラール(やる気・士気)に着目した研究やChelladuraiら(1993)<上付>2)のLEADERSHIP SCALE FOR SPORTSを日本のスポーツ集団に応用した鶴山ら(1996)<上付>12)や杉山(1999)<上付>10)のリーダーシップ研究も競技スポーツ集団における組織論研究の先駆けとして有用な示唆を与えている.  このような競技スポーツ集団のマネジメントを課題とした研究が進められる中で,近年では,リーダーシップやモラール(やる気・士気)などのように個別の要因に着目するだけではなく,さらなる競技力向上や多様なスポーツ集団に対応するためのより広い経営学の立場からみた組織づくりや組織マネジメントの視点が求められている.こうした課題に対して,八丁(2013,2014,2015)<上付>5)6)7)は経営学におけるP.F. ドラッカーの「組織機能」の視点から競技スポーツ集団である大学女子運動部を対象とした「組織機能」の抽出の可能性を報告している.しかしながら,多様な運動部への汎用性やより明確な組織機能の解明においては,今後の研究課題であることも述べている.  本研究は,これらの先行研究を踏まえ,スポーツ組織(競技スポーツ集団)における実体的な組織機能の解明を目指し,大学野球部に焦点を当て,具体的なチームマネジメントへの貢献とスポーツマネジメント分野における組織論研究の発展性を検討することを目的とした.本研究の対象となった大学野球部は,部員数が200名を超える集団であり,練習をはじめ,組織としての活動をどのように運営するのかということが重要な課題となっている.これまでの先行研究では,大学女子運動部を対象とした研究が報告されているが,大学男子運動部における実体的な組織機能を明らかにすることにより,今後のチームマネジメントに有用な示唆を与えるとともに,組織論研究のさらなる可能性や実用性につながるものと考える. U. 研究方法 1. 基本的アプローチ  スポーツマネジメント分野における大学運動部を対象としたこれまでの研究では,指導者のリーダーシップスタイルや部員のモラール(やる気・士気),マチュリティ(成熟度)を課題とした研究が進められてきた経緯がある.当然のことながら,これらの課題についても継続的かつ広く横断的な研究に取り組むことは重要である.一方で,運動部というスポーツ組織の活動の中に潜んでいる組織そのものの構造や機能に言及した組織論研究についてはこれまでほとんど行われていない状況であったが,組織機能の解明に着目した研究は,運動部の組織マネジメントや組織論研究の可能性を示唆するものと考える.  そこで本研究では,P.F. ドラッカーによる組織機能を用いている八丁(2014)<上付>6)による先行研究に依拠し,大学野球部という固有なスポーツ集団に焦点を当て,より実体的な組織機能を明らかにするとともに,対象運動部の組織マネジメントのあり方を基礎的に検討する.  対象となる硬式野球部は,200名を超える部員から構成され,大学運動部の組織としては特徴的な競技スポーツ集団である.組織の構成は,図1に示すように部長,監督,コーチ,トレーナーから構成される「スタッフ」と学生コーチやマネージャー,レギュラーメンバー,一般選手となる「部員」により構成されている.一般的に,大学運動部における監督やコーチはチームの主体的なマネジメントを担う役割を果たしており,その行動はリーダーシップスタイル研究などで議論されている.本研究では,運動部という組織の活動における組織機能を明らかにすることを目指すことから,組織の成員となる部員を対象とし,具体的な組織機能およびチームマネジメントを検討する. 2. 調査項目の設定  調査項目は,運動部の組織マネジメントについて言及している八丁(2014)<上付>6)の先行研究において用いられている項目を中心に,部員特性,目標設定,満足度,モラール,組織機能に関する項目から設定した.目標設定は,「部の目標」および「個人の目標」について,記述での回答を求めた.組織機能に関する項目は,八丁(2014)<上付>6)の先行研究と同様に「マーケティング」,「真摯な態度」,「人は最大の資産である」,「自己目標管理」,「イノベーション」の5つの視点から25項目を設定し,「非常に思う(5)」から「全く思わない(1)」までの5段階評定尺度により回答を求めた.モラールについては,運動部に関するリーダーシップやモラールについて取り上げている池田(2006)<上付>9)の先行研究も踏まえ,「一体感」,「目標達成」,「人間関係」,「合理性」,「向上性」の視点から12項目を用いて「非常に思う(5)」,「全く思わない(1)」の5段階評定尺度により回答を求めた.  さらに,組織活動における総合的な指標として,部員が活動に取り組む中での満足度について「現在の部に満足している」,「競技成績や記録に満足している」,「練習内容や方法に満足している」の項目を設定し,「非常に満足している(5)」から「満足していない(1)」までの5段階評定尺度による回答を求めた. 3. 調査概要と分析の手順  本研究では,競技スポーツ集団として大学野球部に焦点を当て,より高い競技レベルにおいて活動をしているA大学の硬式野球部員230名を対象に質問紙によるアンケート調査を実施し,216名の回答を得た(回収率93.9%).部員にはマネージャーとして女子学生も所属しているが,活動の条件が異なる部分があるため,本研究では男子部員を対象に調査を行った.調査期間は,2016年7月中旬であった.  得られたデータに対し,統計ソフトSPSS22.0Ver. を用いて基礎集計,基本統計,クロス分析を行い,必要に応じてχ<上付>2検定を用いて統計的有意性を確認した.また,組織機能に関する25項目において項目内容の妥当性や組織機能としての共通因子を探るため,探索的因子分析を行った.因子分析モデルには,主成分分析を用い,固有値1.0以上を基準として因子数を決定し,Nomal-Varimax法による直交回転を施し,因子負荷量が0.500以上の項目を取り上げ,因子として解釈,命名した.因子名の解釈については,項目設定の際の先行研究を踏まえ,共同研究者との協議の上,因子を構成する項目の妥当性を確認し命名した.  さらに,部内小集団における組織機能因子の状況を明らかにするために因子スコアの比較を行い,F検定(分散分析),多重比較を用いて統計的有意性を確認した.また,部員の各満足度と組織機能因子の規定関係を検討するために抽出された組織機能因子を説明変数,各満足度及びモラール項目の合計点を目的変数とした重回帰分析を行った.これらの分析を用いて,結果を考察した. V. 研究結果 1. 対象運動部の特性および組織状況 (1) 部員特性および目標  表1は,対象部員の基本特性を示したものである.部内構成では,レギュラーメンバーが17.59%,一般選手が67.59%,学生コーチやマネージャーである学生スタッフが14.81%となっており,選手として活動に取り組んでいるものの,レギュラーメンバーになれるのはほんの一握りの部員となっている.200名を超える部員から構成される対象運動部においては,学生コーチやマネージャーからなる学生スタッフが指導者との連携を図る役割を果たすとともに各学年やポジションにリーダーが存在し,部内小集団のまとめ役として機能することによってチームの活動が円滑に行われている.種目開始時期においては,小学校低学年が77.31%と高い割合を占め,競技歴の長い選手が多いことが特徴的である.  表2は,「部の目標」および「個人の目標」について記述式で回答を求め,共通する項目に分類した結果を示したものである.「部の目標」においては,複数の内容が挙げられている回答も含め,「日本一」を目指すことが共通目標として統一され,高い認識があることが示された.対象となった硬式野球部は,過去に大学野球日本一を達成した実績があり,組織である部の目標として日本一を目指すことが明確に掲げられているとともに,その目標が部員に浸透していることが明らかとなった.「個人の目標」では,「メンバー入り」が53.24%であり最も高い割合を占めたが,「社会的に必要とされる人材になる」や「人間的に成長する」など,将来的な自身の成長も目標としていることが示された. (2) 部員からみた満足度  表3は,活動における各満足度について,学年により分析した結果を示したものである.「現在の部に満足」では,3年生をはじめ,上級生の満足度が高い結果を示す一方で,1年生は「どちらともいえない」の回答が45.45%と高い割合を占めた.調査実施時期を考慮すると,1年生は入部後3〜4ヶ月の頃であり,部の活動に対してまだあまりよくわからない段階の部員が多いことが伺える.また,4年生は「どちらともいえない」,「あまり満足していない」,「満足していない」の回答の合計が42.1%であり,2,3年生に比べると高い割合を示した.4年生においては,自身の卒業後の進路に向けた就職活動との両立や最上級生として活動に取り組む中で,思うような練習や活動ができていない部分があるのではないかと推測される.  「競技成績や記録に満足」,「練習方法や内容に満足」に関する項目については統計的な有意性は確認されなかったが,学年による回答の傾向が示された.特に,「競技成績や記録に満足」では,4年生の「非常に満足」,「満足」の回答が他の学年よりも低い割合を示しているが,これは大学日本一を目標としているものの自分たちが達成できていないことに対し,現状に満足しているわけではないことが伺える. (3) モラール項目に関する基礎的反応  モラールに関する項目は,競技スポーツ集団を対象としたリーダーシップ研究である池田(2006)<上付>9)の先行研究や鶴山ら(1994)<上付>11)によるモラールに着目した組織論的研究を参考に12項目を設定し,「非常に思う(5)」から「全く思わない(1)」までの5段階評定尺度で回答を求めた.表4は,設定した12項目の基本統計を示したものである.最も高い反応を示した項目は「12技術の指導がうまくなされている」(4.19)であり,次いで「B私は部の目標達成のために努力している」(4.06),「A目標達成のために全員が頑張っている」(3.93)であった.一方,「@上級生と下級生の気持ちが合っている」(2.94),「H不平・苦情がうまく取り上げられている」(3.12)は低い反応であった.これらの結果から,目標達成のための技術指導や部員の努力は高い評価が確認できるが,部員同士の意見交換や上級生と下級生の関わりについてはあまり実感できていないことが示唆された. (4) 組織機能項目に関する基礎的反応  組織機能に関する項目は,八丁ら(2014)<上付>6)による先行研究を踏まえ,ドラッカーの基本的組織機能の視点から25項目を設定し,「非常に思う(5)」から「全く思わない(1)」までの5段階評定尺度による回答を求めた.表5は,設定した25項目の基本統計を示したものである.最も高い反応を示した項目は,「14. 部員が良いプレーをしたときに誉める」(4.39),「21. 部の目標は部全体に浸透している」(4.39)であり,次いで「22. 自分たちの部らしい練習・戦術がある」(4.32),「23. チームの伝統的な練習がある」(4.27),「13. チームの目標を達成するために努力している」(4.23)の順に高い反応を示した.これらの結果から,部の目標の統制や目標達成のための練習やその努力において部員が高い意識を持って活動に取り組んでいることが伺える.  一方で,「4. 学内の他の部と刺激し合っている」(2.66)は最も低い反応を示し,同じ学内における運動部は他にもあるものの,活動における刺激には感じていないことが示された. 2. 対象運動部の組織機能の検討 (1) 対象運動部の組織機能  八丁(2014)<上付>6)による先行研究では,大学女子運動部における組織機能の検討が報告されるとともに,様々な運動部への適用や組織機能としての汎用性の解明が課題として挙げられている.また,複数の運動部を対象とした組織機能の検証を試みているが,組織活動因子をめぐっては説明力が弱いことや明確な組織活動因子の抽出には至らなかったことも報告されている.この背景には,ドラッカーが定義する基本的な組織機能が運動部という固有な組織において有効に機能するのかという検証や競技レベル,種目による違いなどを考慮した実体的な組織機能が現段階では不明瞭であることが要因であると考える.  本研究では,これまでの先行研究を踏まえ,大学男子運動部に焦点を当て,より実体的な組織機能を明らかにするために,探索的因子分析を用いて対象運動部における組織機能因子の抽出を試みた.八丁(2014)<上付>6)の先行研究においても組織機能の因子構造は探索的な段階であり,本研究では,その研究方法の妥当性から同様の項目や手順として探索的因子分析を採用することが妥当であると考える.その結果,全分散量の58.6%が説明され,7つの因子が抽出された.表6は,抽出された7因子の構造を示したものである.第1因子は,「17. 個人の能力がチームに活かされている」,「16. 一人一人の部員が大切にされている」,「10. 部員一人一人が部活動に真剣に取り組んでいる」などの項目が高い負荷量を示したことから「F1:人は最大の資産である」と命名した.第2因子は,「22. 自分たちの部らしい練習・戦術がある」,「15. それぞれの部員の貢献を認めている」などの項目から部内で継承されている特徴的な練習や戦術を意味するものとして「F2:伝統的なイノベーション」と解釈した.第3因子は,「14. 部員がいいプレーをしたときに誉めている」,「13. チームの目標を達成するために努力している」の項目からチーム内の士気を高める役割であると解釈し「F3:リーダーシップ」,第4因子は,「19. 部員一人一人が明確な目標を持っている」の項目から「F4:自己目標管理」,第5因子は,「16. 部内で意見交換をしている」の項目から「F5:内部コミュニケーション」と命名した.また,第6因子は「4. 学内の他の部と刺激し合っている」,「9. 指導者とよく話をする」の項目から部員以外でのコミュニケーションと解釈し「F6:外部コミュニケーション」,第7因子は「24. いつも新しい練習やトレーニング法を導入しようとしている」,「25. いつも新しい戦術を取り入れようとしている」の項目から「F7:新たなイノベーション」と命名した.  これらの7因子は,対象である大学野球部における実体的な組織機能を表す要因として妥当な因子であると考える. (2) 部内小集団における組織機能の状況  本研究で抽出された組織機能を表す7因子について,組織における機能を検証するために部内小集団となる学年及び部内構成による因子スコアの比較を行った.表7は,学年別による組織機能因子のスコア比較を示したものである.全体的に上級生と1年生で対照的な傾向がみられたが,「F2:伝統的なイノベーション」,「F5:内部コミュニケーション」において学年によって異なる結果が示された.「F2:伝統的なイノベーション」では,1年生の反応が低く上級生が高い反応を示しており,上級生には自分たちの部らしい練習・戦術や一人ひとりの部員の貢献すべきことが浸透しているが,1年生にはまだ練習内容や部内での役割が定着していないことが伺える.また,「F5:内部コミュニケーション」においては1年生が高い反応を示す一方で,4年生は低い反応であった.この結果は,1年生は仲間同士のコミュニケーションが機能しているが4年生においては部員同士の意見交換があまり機能していないことが伺える.  部内構成別による因子スコアの比較(表8)では,「F3:リーダーシップ」,「F6:外部コミュニケーション」において各集団の機能が異なることが示された.まず,「F3:リーダーシップ」では,レギュラーメンバーと学生スタッフの反応が高い結果を示し,一般選手は低い結果であった.この結果から,レギュラーメンバーや学生スタッフは部の目標達成のために自ら率先して取り組む意識があるが一般選手は練習に取り組んでいるものの,主体的な意識を持つことが課題になることが示唆された.また,「F6:外部コミュニケーション」においてもレギュラーメンバーに比べて一般選手の反応が低いことが示された.この結果は,レギュラーメンバーは自分たちの部が学内の他の部に比べて高い競技成績を残していることや指導者とのコミュニケーションが取れていることを実感しているが,一般選手においては指導者との関わりが少ない状況であることが要因と考えられる. 3. 組織活動の促進への影響 (1) 「現在の部に満足」に与える組織機能の規定関係  表9図2は,「現在の部の活動に満足」を目的変数とし,組織機能の7因子を説明変数とした重回帰分析の結果を示したものである.ここでは,説明変数の標準偏回帰係数の正負の大きさが目的変数への因果関係を規定しており,説明変数がプラスに作用することにより目的変数である「現在の部に満足」が高まるものと解釈する.その結果,「F1:人は最大の資産である」,「F6:外部コミュニケーション」,「F2:伝統的なイノベーション」,「F3:リーダーシップ」の順にプラスへの規定力が高いことが示された.即ち,部員一人一人の努力やチームへの貢献を認めること,指導者からの言葉かけや他の部からの激励,さらに目標達成に向けての取り組みや部の一体感が組織活動の促進に対して有効に機能することを示すものと考えられる.特に,「F1:人は最大の資産である」,「F6:外部コミュニケーション」が高い規定力を示していることから,一人一人の部員が自身の役割を意識することや部の一体感を高めることが重要であり,そのための指導者の役割やはたらきかけが部員の満足度を高めることにつながるのではないかと考える. (2) 「練習方法や内容に満足」に与える組織機能の規定関係  表10図3は,「練習方法や内容に満足」を目的変数とし,組織機能の7因子を説明変数とした重回帰分析の結果を示したものである.その結果,「F1:人は最大の資産である」,「F2:伝統的なイノベーション」,「F6:外部コミュニケーション」,「F7:新たなイノベーション」の順にプラスへの規定力が高いことが示された.練習方法や内容は,運動部の中心的な活動であり,その満足度を高めることは組織活動をより促進することにつながるものと言える.自分たちの部らしい練習や戦術はもちろんであるが,新たな練習方法を取り入れることも有効に機能することが明らかとなった.さらに,練習に取り組む努力やチームの一体感,指導者とのコミュニケーションも満足度を高める要因となっている.例えば,監督やコーチからの直接的な指導や日々の練習における様々なコミュニケーションは,選手が練習方法を身につけることや内容を理解するだけではなく,部員が納得して練習に取り組むことや練習への満足度を高めることにも貢献するものと考えられる.これらの結果は,練習をより効果的に運営するためのはたらきかけになるものと言える. (3) 「部員のモラール」に与える組織機能の規定力  表11図4は,モラールに関する項目の合計得点を目的変数とし,組織機能の7因子を説明変数とした重回帰分析の結果を示したものである.その結果,「F4:自己目標管理」がプラスに作用することが示された.即ち,部員一人一人が自分の目標を持つことや部の目標を共有することがモラールを高める要因であることが明らかとなった.モラールは,部員のやる気や士気を表す指標であり,明確な目標設定を掲げることが部員の意欲を高めることや活動への促進につながるものと考える. W. 考  察 1. 本研究の対象運動部における組織機能の検討  本研究の対象である運動部の組織機能因子として,「F1:人は最大の資産である」,「F2:伝統的なイノベーション」,「F3:リーダーシップ」,「F4:自己目標管理」,「F5:内部コミュニケーション」,「F6:外部コミュニケーション」,「F7:新たなイノベーション」の7因子が抽出された.これらの因子は,基本的な組織機能である5つの要因を包含しつつ,対象である大学野球部における実体的な組織機能として確認することができた(図5).また,P.F. ドラッカーの組織理論で提唱されている「真摯な態度」に該当する因子は抽出されなかったが,この部分については,部員の活動に対する姿勢が統一化されている,もしくは真摯な態度で活動に臨むことが部員全員にとって大前提となっていることが要因ではないかと考えられる.  これらの組織機能構造は,P.F. ドラッカーの組織機能理論が運動部というスポーツ組織においても応用することが可能であることを示すとともに,対象運動部固有の組織機能として捉えることができる.また,先行研究である八丁(2014)<上付>6)の報告とは異なる構造を示し,対象とする組織によって組織機能が特徴的であることが示唆された. 2. 大学野球部における組織マネジメントの検討  部員の特性(組織内の小集団)および満足度,モラールによる組織機能の分析結果から,それぞれの部員の状況や満足度に応じて組織機能因子の反応が異なることが示された.これらの結果を踏まえた組織マネジメントでは,各学年に応じた部内での役割を検討することや部員の満足度を高める組織機能に対して効果的にはたらきかけることが有効ではないかと考える.例えば,4年生は「F5:内部コミュニケーション」の因子スコアが低いことから,最上級生として下級生に積極的に声をかけることや4年生同士での意見交換は組織機能としての効果が期待できる.さらに,満足度には影響がないものの,モラールを高める「F4:自己目標管理」は,部員が目標を明確に意識していることを示す結果であり,組織としての統制を示唆するものと考える. X. 結  論  本研究は,競技スポーツ集団の中でも大学野球部に焦点を当て,P.F. ドラッカーの基本的な組織機能による視点から運動部の組織機能の解明および大学野球部という固有なスポーツ組織における組織マネジメントのポイントを検討することを目的とした.結果は以下のように要約される. 1. 対象となった大学野球部における組織機能因子(7因子)が抽出され,固有な競技スポーツ集団における実体的な組織機能が明らかとなった.この組織機能は,P.F. ドラッカーの提唱する基本的な組織機能がスポーツ集団においても有効に機能することを示すとともに,対象運動部の実体的な組織機能であると考える. 2. 部員の特性(部内の小集団)における組織機能の状況や満足度,モラールへの規定関係から組織活動を促進するためのマネジメントのポイントが示唆された.  これらの結果は,運動部における組織マネジメントに有用な示唆を与えるとともにスポーツマネジメント分野の組織論研究の発展性を示すものと考える. 引用文献 1) 青井和夫,綿貫譲治,大橋幸(1978)集団・組織・リーダーシップ,培風館,東京 2) Chelladurai, P (1993) Leadership in sports. International Journal of Sports Psychology 21 3) 藤田雅文(1980)競技的運動クラブのマネジメント,日本体育学会第31回大会号 4) 藤田雅文(1981)競技的運動クラブのマネジメント第2報,日本体育学会第32回大会号 5) 八丁茉莉佳(2013)「運動部の組織論的研究−ドラッカーの基本的な組織機能に着目して−」日本体育学会第64回大会号 6) 八丁茉莉佳(2014)大学女子運動部の組織機能に関する基礎的研究−ドラッカーの組織機能に着目して−,平成26年度 日本女子体育大学修士論文 7) 八丁茉莉佳(2015)「伝統的な大学女子運動部における組織マネジメントに関する基礎的研究」日本女子体育大学紀要第45巻 8) 品田龍吉(1982)競技的運動クラブにおけるモラールの多変量解析,宮城大学教育学部紀要 9) 池田瑠里,高橋和之,大門芳行,柴田雅貴,湯澤芳貴,畑攻(2006)チームスポーツ系運動部におけるモラールの縦断的研究,日本女子体育大学紀要第36巻 10) 杉山歌奈子(1999)競技スポーツ集団におけるリーダーシップに関する基礎的研究,平成11年度 日本女子体育大学大学院修士論文 11) 鶴山博之,畑攻,渡部誠ほか(1994)モラールから見た陸上競技部のマネジメントに関する基礎的研究,陸上競技紀要Vol.7 12) 鶴山博之,畑攻,渡部誠ほか(1996)リーダーシップから見た陸上競技部のマネジメントに関する基礎的研究,陸上競技紀要Vol.9 13) 杉山歌奈子(1999)競技スポーツ集団におけるリーダーシップに関する研究,平成11年度 日本女子体育大学大学院修士論 参考文献 ・出村慎一,西嶋尚彦,佐藤進,長澤吉則編(2007)「健康・スポーツ科学のためのSPSSによる多変量解析入門」杏林書院 ・畑攻(1993)「転部・退部行動と女子運動部のマネジメント」日本女子体育大学紀要第23巻 ・畑攻,柴田雅貴,塚本正仁,杉山歌奈子(2004)「チームスポーツ系運動部におけるコーチのリーダーシップに関する基礎的研究」日本女子体育大学紀要第34巻 ・池田瑠里(2004)「競技スポーツ集団に関する組織論的研究」平成16年度 日本女子体育大学大学院修士論文 ・石村貞夫,石村友二郎他編著(2011)「SPSSでやさしく学ぶアンケート処理[第3版]」東京図書株式会社 ・伊丹敬之,加護野忠男(1998)「ゼミナール経営学入門」日本経済新聞 ・加護野忠男(1981)「経営組織の環境適応」白桃書店 ・金井壽宏(2004)経営学入門シリーズ「経営組織」日本経済新聞社 ・三隅二不二(1978)「リーダーシップ行動の科学」有斐閣 ・P. ハーシー,K. ブランチャード(1978)「行動科学の展開−人的資源の活用−」日本生産性本部 (平成28年9月16日受付 平成28年12月14日受理)