<論文> 超音波法を用いたヒトの筋硬度の定量的評価 −異なるスポーツ活動を実施している女子大学生の 上腕及び大腿の筋硬度比較− Quantitative evaluation of the human muscle hardness using the new -developed ultrasonography : Comparison of the muscular hardness in upper arm and thigh on female college athletes 沢 井 史 穂<上付>1)  藤 田 英 二<上付>2)  福 永 哲 夫<上付>3) Shiho SAWAI, Eiji FUJITA and Tetsuo FUKUNAGA Abstract  The body shape, body composition and the muscle hardness of upper arm and thigh were measured for total of 128 people, including 108 female students who practicing specific athletic sports and 20 non athletes in our college. The muscle hardness was estimated using the new -developed ultrasonic instrument (mhULT) which had a pressure gauge atached to the probe of a B -mode ultrasonic diagnostic equipment. The mhULT can make it possible to estimate the amount of muscle deformation to pressure of the probe in real time. As a result, the upper arm muscle indicated no significant difference in muscle hardness among sports categories, however, the significant difference for muscle hardness was recognized in thigh muscle among the athletes of different sports categories. On the other hand, a negative correlation was shown between the muscle hardness and muscle thickness in thigh muscle. From these results, it is considered that the mhULT medhod is usefull to estimate handily a quantitative evaluation of the muscle hardness. Further consideration will be needed to make clear the muscle hardness for the movement style peculiar to sports categories.  Keywords :muscle hardness, B -mode ultrasonography, sports activity, female college students T. 緒  言  競技スポーツは種目によって運動様式やトレーニング内容が異なり,特定の種目を長期間にわたり実施している競技スポーツ選手は,種目の特徴を反映した身体の組成を示す<上付>7).特に骨格筋はその負荷の程度に応じて発達することから,スポーツ選手の身体各部の筋量(筋厚や筋横断面積)分布には種目による差がみられる<上付>10)11)13).また,筋の力発揮特性は,筋量のみならず筋線維長あるいは羽状角といった筋構造に関係する因子の影響を受けるため,スポーツ選手は筋の構造因子においても実施種目を反映した特徴を示すことが分かっている<上付>9)18).このようなヒトの骨格筋の構造特性(筋厚<上付>5)26)や筋断面積<上付>6)15)25),羽状筋における羽状角<上付>3)17)など)については,これまで超音波画像診断技術を活用して定量化されてきた.さらに,筋の構造はその機能(筋力発揮能力)を決める重要な因子であることも明らかにされてきた.例えば,肘屈曲および膝伸展筋力とその主働筋の筋断面積や筋厚とは高い相関関係にあることが多くの先行研究で報告されている<上付>5)6)14)15)25).しかしながら,筋の厚さが同じでも,筋線維組成の違いや筋線維を取り巻く結合組織の影響などによって筋の質が異なれば,筋の出力にも違いが生じる可能性がある.村木ら<上付>28)は,大腿前部の筋硬度指数(筋変位量を筋厚で補正した値)は膝伸展筋力と有意な相関を示し,高い筋力を示す筋は硬い傾向にあること,大腿前部の筋厚と筋硬度指数を組み合わせると膝伸展筋力の推定精度が上がることを報告している.また,筋は収縮する(アクチンとミオシンのクロスブリッジが形成される)と硬くなる特性を有する<上付>41)ことから,筋力の増大に伴い筋の硬さも増す<上付>30).小泉ら<上付>20)は筋硬度計を用いて筋の弛緩時と緊張時の筋硬度差が大きいと最大筋力が高く,小さければ筋持久力が高いことを示し,筋硬度を測定することによって筋線維組成に言及できる可能性を示唆している.一方,安静時でも筋緊張,筋疲労,筋損傷があると筋は硬くなる<上付>29)30)33)ので,筋硬度の変化を知ることで筋のコンディションを評価することができる.  このように,筋硬度は筋力や筋線維組成をはじめ,筋の内部の環境変化(筋内圧や血流量,腫脹など)を反映したもの<上付>29)31)36)38)と考えられ,筋硬度を定量化することによって得られる情報は非常に多い.  しかしながら,特定のスポーツ種目を長期間にわたり実施していることによって,筋の硬さという質的特性に影響がもたらされるのか否かを定量的に明らかにした研究はない.  筋の硬さ(筋硬度)は,スポーツやリハビリテーションの現場において,もっぱら手で触れたときの感覚によって古くから定性的に評価されてはいたが,定量化に向けては方法論やコストの面で多くの課題を抱えていた.例えば,圧入型の筋硬度計を用いて生体表面から圧力をかけた時の皮下組織全体の変位量を数値化するという手法<上付>2)19)21)は,皮膚,皮下脂肪,筋といったそれぞれ弾性係数が異なる組織の総合的な硬さを求めているのであって,筋そのものの硬さを検出していない<上付>24)27)上,検者の習熟度の違いによる測定誤差を生じやすいため,その妥当性や信頼性には限界があることが指摘されている<上付>37).これに対し,近年開発された超音波診断装置によって組織の硬さをリアルタイムに評価できるstatic elastography法<上付>8)24)やdynamic elastography法<上付>34)39)42)は,高精度に筋硬度を評価することができるが,装置が高価なことに加え,持ち運びが困難であることから,スポーツやリハビリテーションなどの実践現場で手軽に利用することができないという問題がある<上付>28).  一般的に「硬さ」とは「他の物体によって変形を与えられた際に呈する抵抗の大小」と定義される<上付>40)ため,筋硬度も身体外部から筋に加えた力(応力)と筋形状の変位(歪)の関係から定量的に評価することができると考えられる.この発想に基づき,Bモード超音波診断装置のプローブに圧力計を装着することにより,加えた圧力に対する筋形状の変形量をリアルタイムに計測できる装置(荷重超音波装置;muscle hardness ultrasonography;mhULTと称する)が最近開発された<上付>4).この装置はプローブと本体が小型軽量であり,PCにつなげて専用のアプリケーションソフトにより超音波画像を取り込み,プローブ圧に伴う筋厚の変化を動画で記録することができる.持ち運びが容易なため,フィールドでの測定も十分可能である.  そこで本研究は,このmhULTを用いて,異なるスポーツ種目を実施している女子大学生の上肢と下肢の筋硬度を定量化し,種目間で差があるか否かを検討することを目的とした.女子のスポーツ種目には,高い筋力発揮能力が必要とされる種目がある一方,ダンスや体操などきわめて高い柔軟性が求められる種目も多い.もっぱら筋を収縮させることが多い運動を行っている者と,筋をストレッチさせる運動を相当量行っている者とでは,筋硬度が異なる可能性がある.さらに,形態,身体組成,皮下組織厚(上腕前部及び大腿前部の皮下脂肪厚と筋厚)の測定も行い,スポーツ種目別特性を明らかにすることとした. U. 方  法 1. 被 験 者  本学の運動部に所属し,特定のスポーツ種目を競技レベルで実践している108名(新体操部15名,モダンダンス部20名,水泳部14名,陸上競技部(中長距離)12名,軟式野球部16名,バスケットボール部16名,バレーボール部15名)と,運動部に所属していない本学一般女子学生20名の計128名(平均年齢20.3±1.6歳)を被験者とした.被験者には,本研究の趣旨と倫理的配慮に関して口頭および書面にて十分な説明を行い,研究への協力に対する同意書に署名を得た.なお,本研究は,日本女子体育大学ファカルティ・ディベロップメント委員会倫理部会の承認(承認番号2014-8)を得て実施した. 2. 測定項目  測定項目は,身長,体重,身体組成(体脂肪率と除脂肪体量),右側の上腕長と上腕周径囲,右側の大腿長と大腿周径囲,右側の上腕部と大腿部の皮下脂肪厚,右側の上腕二頭筋と大腿四頭筋の筋厚および筋硬度であった.大腿四頭筋の筋厚は大腿直筋と中間広筋を合わせた厚さとした.体肢の形態計測はスチール製メジャーを用い,計測になれた検者1名が当たった.体重と身体組成の測定には,生体電気インピーダンス法によるボディコンポジションアナライザー(Biospace社製InBody3.2)を用いた.そして,皮下組織厚と筋硬度の測定にはmhULTである「みるキューブ」(グローバルヘルス社製)を用いた.本装置は,携帯型のBモード超音波装置のリニア型プローブ(6Mhz)に圧力計を内蔵し,1gf単位でプローブによる圧力をかけていった際の筋厚変化をリアルタイムに記録することができる装置である.プローブが内部ケースと外部ケースの二重構造になっており,ケース間に圧力計が装着されている(図1).プローブ振動子は64素子,取得される画像データの画素数は113×320dot(0.325mm/dot),有効測定深度は80mmである.この装置による硬度測定の妥当性については3種類のファントムゲルを用いた実験で検証されており,ヒト骨格筋においても精度よく高い再現性で安静時の硬度を測定できること,また,mhULTで求めた筋硬度の値は力発揮レベルと正の相関関係を示すことが確認されている<上付>4).  上腕と大腿の周径囲,皮下組織厚,筋硬度の測定部位は,上腕二頭筋と大腿四頭筋の筋腹に相当する部位とした.すなわち,上腕部については肩峰点から上腕長の遠位60%部位,大腿部については大転子点から大腿骨長の遠位50%部位とした<上付>1). 3. 筋硬度の測定・評価法  被検者の肢位は,ベッド上に仰臥位で肩関節外転90度位,肘関節伸展0度位とし,前腕を回外位にすることで肘窩部のしわが真上を向くよう上腕を外旋位にした.下肢は,膝関節伸展位で両脚を楽に伸ばした状態とした.被験者には全身の筋を十分弛緩させるように指示した.測定部位の皮膚表面にmhULTのプローブを当て,0〜1,000gfを超えるまで,1秒当たり100gfずつのペースでゆっくりと圧迫力をかけていく過程での超音波画像をサンプリング周波数8Hzでパーソナルコンピュータに取り込んだ.得られた画像データは,専用解析ソフト(mirucubeY ver. 1.0,グローバルヘルス社製)を用いて,プローブ圧の増加に伴う筋の厚さ変化を0.1mm単位で計測した(図2).先行研究の手法<上付>4)に倣い,プローブ圧と筋厚の間に直線性が認められる区間(100〜600gf)の回帰式を求め(図3),その勾配の逆数,すなわち“荷重/変形量”を筋硬度の指標(筋硬度評価値)とした.値が大きいと筋が硬く,小さいと筋が柔らかいことを意味している. 4. 統計処理  スポーツ種目間の各測定項目の平均値の差の検定は,対応のない一元配置分散分析を用い,有意差が認められた場合はTukey-Kramerの多重比較を行った.等分散性が棄却された項目については,Kruskal Wallis検定とSteel-Dwassの多重比較を行った.有意水準は危険率5%未満とした. V. 結  果 1. 筋硬度について  mhULTを用いて評価した各スポーツ種目群の上腕部(上腕二頭筋)および大腿部(大腿四頭筋)の筋硬度評価値(平均値±標準偏差)を表1に示す.上腕部に比べ,大腿部の方が筋が柔らかいことが分かる.  上腕二頭筋の筋硬度評価値の平均値には,群間で有意差は認められなかった(F=1.54,p=0.17).一方,大腿四頭筋の筋硬度評価値の平均値には群間で有意差が認められ(F=6.29,p<0.001),多重比較の結果,陸上競技部は他のスポーツ種目群より有意に高値(89.2±15.7gf/mm)を示した.一般群(89.9±31.2gf/mm)とモダンダンス群(65.6±16.3gf/mm)の間にも有意差がみられた.但し,大腿の筋硬度評価値と筋厚との間には負の相関関係(筋が厚いほど柔らかい)が認められた(図4)ため,筋硬度評価値に筋厚を乗じて正規化して比較した.その結果においても,群間で有意差が認められた(F=2.51,p=0.02).すなわち,筋厚で補正した大腿四頭筋の筋硬度評価値(筋硬度指数と称する)は,審美種目(モダンダンス,新体操)が他の群に比べて低い値を示す傾向が認められ,多重比較の結果,バレーボール部(2,607.1±249.1)と新体操部(2,235.6±295.2)の間には有意差が認められた(図5). 2. 体格・身体組成について  各群の体格と身体組成の測定結果(平均値±標準偏差)を各スポーツ種目の経験年数も含めて表2に示す.測定項目すべてにおいて群間に有意差が認められたため,多重比較の結果を表の最下行に示した.身長と体重の平均値はバレーボール部とバスケットボール部が高く,陸上競技部が低かった.BMIは球技種目の部(軟式野球,バレーボール)が高く,陸上競技部と新体操部が低かった.体脂肪率は新体操部が最も低く,LBM(除脂肪体重)はバレーボール部とバスケットボール部が他の種目より有意に高く,陸上競技部が上位5種目に比べて有意に低かった. 3. 形態・皮下組織厚について  各群の上腕と大腿の形態計測の結果と皮下組織厚の測定結果を表3に示す.形態計測値,皮下組織厚の測定値すべてに有意な群間差が認められたため,多重比較を行った結果を表の最下行に示す.上腕長と大腿長の平均値は身長を反映してバレーボール部とバスケットボール部が高い値であったが,身長の割に水泳部は上腕が長く,新体操部は大腿が長かった.上腕囲の平均値は水泳部が最も高い値を示した.次いで球技種目の部が高く,新体操部と陸上競技部は上位4種目に比べて有意に低値を示した.大腿囲の平均値は球技種目の部が高い値を示し,新体操部が低い値であった.上腕と大腿の皮下脂肪厚の平均値はいずれも新体操部が最も低い値を示した.筋厚の平均値は球技種目の部が高い値を示し,一般群,陸上競技部,新体操部が低い値を示した. W. 考  察 1. 運動種目別の筋硬度評価値の違い  Bモード超音波診断装置のプローブに圧力計を内蔵し,プローブ圧に対する筋の変形量をリアルタイムに計測できる装置(mhULT)を用いて,体育大学の運動部に所属する女子スポーツ選手の筋硬度を評価した.Bモード超音波装置を用いて皮膚表面から一定の圧を加えたときの筋厚の変化量から筋硬度を求める手法は,村木ら<上付>27)28)や河合ら<上付>16)によっても試みられており,それらは10N<上付>27)28)もしくは2,000gf<上付>16)の圧をかけた際の筋厚と押圧前の筋厚との差を筋硬度の指標としている.しかし,藤田ら<上付>4)は,今回の手法で0〜1,000gfまでヒト骨格筋に圧を加えた場合に,押圧の強さと筋厚との関係は線形ではなかったことから,先行研究の手法で筋硬度を評価することの妥当性には疑問があるとして,押圧と筋厚との間に直線性が認められる一定の加圧区間における回帰式の勾配(変化率)を筋硬度の指標とする方法を開発した.但し,皮膚表面からの押圧に対する筋の厚さの変化量(率)は,筋そのものの厚みおよび筋の上部組織である皮下脂肪の厚みや硬さの影響を受けると考えられる.実際,先行研究<上付>27)28)では上腕前部と大腿前部の筋の変位量と筋厚との間に有意な相関関係が認められたことから,筋厚の影響を取り除いた筋硬度指数を算出して評価している.本研究においては,筋硬度の指標とした分析区間における押圧と筋厚との回帰式の勾配は,上腕部では筋厚との相関はなかったが,大腿部では筋厚と有意な負の相関を示した(皮下脂肪厚とは相関なし).これは,筋が厚いほど柔らかいことを意味しており,筋厚すなわち皮下脂肪との境目から骨までの距離が長い方が垂直圧力に対する圧縮量が大きい(骨までの距離が近いと筋が圧縮される量に限界がある)ことによると推察される.そこで,大腿部の筋硬度評価値を筋厚で補正し(筋硬度指数),運動種目間の比較を行ったところ,それでも群間差が認められ,審美種目(モダンダンス,新体操)が,球技種目(バスケットボール,バレーボール,軟式野球)や個人種目(水泳,陸上競技),一般群に比べて筋が柔らかい傾向を示した.球技は,体肢の筋が素早く大きな力発揮をしたり,下肢の関節を屈曲して身体重心を低くした姿勢を保つことが多い.陸上中長距離や水泳は,単一動作を連続して繰り返す運動であり,体肢の筋は持続的な力発揮が求められる.これに対し,ダンスや新体操は動きが多様で変化に富み,体肢を伸展させて重心を高く保って動くことが多い.また,高い柔軟性を必要とされることから,日常的に下肢筋群のストレッチングを励行している.つまり,日頃の練習で下肢の筋を収縮させている時間と筋を弛緩して伸長させている時間がスポーツ種目によって異なり,筋を伸長させることの多いダンスや新体操を長期間実施してきた者は,下肢の筋が柔らかくなっている可能性が考えられる.しかし,大腿四頭筋以外の筋硬度は評価していないので,推論の域を出ない.一方,上腕二頭筋の筋硬度評価値に群間差が認められなかったのは,今回対象としたスポーツ種目の間では,上腕屈筋の活動量に顕著な差がなかったためではないかと推察される.上腕伸筋を対象にすれば,球技種目と他の群とで差がみられたかもしれない.いずれにせよ,スポーツ種目特有の運動様式と筋の硬さとの関係を明らかにするためには,本研究で対象とした部位以外の筋についても硬度比較を行うなど,今後さらなる検討が必要である.また,安静時だけでなく筋力発揮時においてもスポーツ種目間で同様の筋硬度差が認められるのかどうかについても,検討する必要があろう.加えて,筋硬度計を用いて評価した若年女性の大腿筋群の筋硬度は,月経周期中に変動していることが報告されている<上付>35)ことから,mhULTを用いて筋自体の変形量から評価した筋硬度に対する月経周期の影響も検討すべき課題である. 2. 対象者の体格特性  本研究で対象とした女子体育大学生の体格を,厚生労働省が発表している20歳女性の全国平均値<上付>22)(身長158.3cm,体重51.7kg)と比べると,身長は陸上競技部以外,体重は新体操部と陸上競技部以外,一般群も含めて高い値を示し,全体的に一般女性より体格がよいことが確認された.一方,体育系大学の新体操,ソフトテニス,バスケットボール,バドミントン,バレーボールの各運動部に所属する女子選手の形態計測を行った長澤ら<上付>32)の報告と比較すると,バレーボール部の体格はほぼ同じであったが,新体操部,水泳部,バスケットボール部は本学の方がやや小柄であった. 3. 形態及び身体組成からみた運動種目別特性  上肢と下肢の形態面については,水泳部は上肢が発達しており,新体操部は大腿が細く長いなど,その競技種目に適した体型を有していた.体脂肪率は,新体操部が20%未満を示したほかは,すべての群で標準的な値(20〜25%)<上付>23)を示した.  超音波法で測定した皮下脂肪厚については,上腕部,大腿部とも新体操部が明らかに低値を示し,筋厚は球技種目が高値を示した.同じ超音波法を用いてアジア大会及びオリンピック代表女子選手の皮下脂肪厚と筋厚の分布状態と種目差を検討している石田の報告<上付>12)と比べると,本研究では,競技レベルの高い新体操部が器械体操の女子一流選手並みの皮下脂肪厚の値を示した.  以上のことから,本学の運動部に所属する女子の形態と身体組成は,日本のトップレベルの女子スポーツ選手の示す種目別の特徴に近いと考えられた.特に,競技開始年齢が早く,専門種目のトレーニングを長期間に渡って続けている者の多い新体操部(平均経験年数14.3年)と水泳部(平均経験年数15.8年)(表2)は,競技特性を反映した体型を示しているといえよう. Y. ま と め  本学の運動部に所属し,特定のスポーツ種目を競技レベルで実践している108名と,運動部に所属していない本学一般女子学生20名の計128名を対象に,形態,身体組成,上腕部と大腿部の筋硬度を測定した.Bモード超音波診断装置のプローブに圧力計を内蔵し,プローブ圧に対する筋の変形量をリアルタイムに計測できる装置(mhULT)を用いて評価した筋硬度については,上腕部では実施しているスポーツ種目によって差がみられなかったが,大腿部では種目間で有意な差が認められた.しかしながら,大腿部の筋硬度評価値と筋厚との間には負の相関関係があったため,筋厚で補正して筋硬度を評価したところ,審美種目の群が他の群より相対的に筋が柔らかい傾向を示した.また,球技種目の部は体格に優れ,上腕・大腿ともに筋が厚い,新体操部は上腕と大腿の周径囲,皮下脂肪厚,体脂肪率が少ない,陸上競技(中長距離)部は小柄で細身である,水泳部は上腕が長く太い,という特徴が認められ,日本のトップレベルの女子スポーツ選手の示す種目別の特徴に近いと考えられた.  mhULTによって筋の硬さという質的特性を簡便に定量評価することができるようになった.本研究では,異なるスポーツ活動を行っている女子大学生の安静時における上腕と大腿の筋硬度の比較を行うだけに留まったが,スポーツ種目特有の運動様式と筋の硬さとの関係を明らかにするためには,対象部位を増やしたり,筋力発揮時の硬度比較を行うなど,今後さらなる検討が必要である. 付記  本研究は平成26年度二階堂奨励研究費の補助を受けて行ったものである. 謝  辞  本研究の実施に当たり,快くご協力くださいました本学モダンダンス部,新体操部,陸上競技部,水泳部,軟式野球部,バレーボール部,バスケットボール部の部長・監督の先生方並びに部員の皆様に厚くお礼申し上げます.また,測定の検者としてご尽力いただきました助手の方々に心より感謝申し上げます. 参考文献 1) 安部孝,福永哲夫(1995)日本人の体脂肪と筋肉分布,p.91-108,杏林書院,東京. 2) Ashina, M., Bendtsen, L., Jensen, R., et al. 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