<資料> 17〜18世紀フランスにおけるオペラ=バレエの初演状況 Ope´ras-ballets Produced in 17<上付>th and 18<上付>th Century-France : A Preliminary Study 森   立 子 Tatsuko MORI Abstract Ope´ra-ballet is a genre of French lyric theatre that enjoyed popularity in the late 17<上付>th and early 18<上付>th century. Despite the fact that the importance of the genre as a choreo-musical spectacle has been acknowledged, too little study has been given to the subject up to the present.  One of the reasons for this paucity is that the problems related to the definition and classification of ope´ra-ballet have not been fully clarified. Considering the fact that the definition of the genre differs through the centuries, we have attempted to establish a list of the ope´ras-ballets produced in 17<上付>th and 18<上付>th century-France, based on the 18<上付>th century-catalogue“Ballets, Ope´ra, et autres ouvrages lyriques”(1760) by Louis-Ce´sar de La-Beaume-le-Blanc Lavallie`re. This list shows which works were classified as“ope´ra-ballet”in those days, and it will serve to elucidate the abovementioned problems.  Keywords :ope´ra-ballet, French lyric theatre, dance history, Lavallie`re 1. 本研究の問題意識と目的  オペラ=バレエ(ope´ra-ballet)は,17世紀末から18世紀のフランスにおいて流行した舞台芸術の一ジャンルである.ジャンルの名称からも分かるように,オペラ=バレエにおいては舞踊が作品の主要な構成要素の一つとなっており,その意味で,オペラ=バレエについての十全な理解なしに,この時代の舞踊史を論じることは難しいともいえる.  今日の一般的な定義によれば,オペラ=バレエは,「通常,プロローグと3〜4つの幕(アクト,またはアントレと呼ばれる)から構成されるフランスの舞台芸術の一ジャンルで,各幕が独立した筋立てを持っており,それらを緩く結びつけるようなテーマが存在する.また,各幕には少なくとも一つ,歌と舞踊によるディヴェルティスマンが挿入されている」<上付>1)とされている.  この定義は,フランス・バロック音楽研究の第一人者であるアンソニーが,論文「18世紀初頭のフランスのオペラ=バレエ 定義と分類の諸問題」<上付>2)の中で明らかにした見解が基になっている<上付>(1).アンソニーはまた,同論文において,1697年から1735年の間に王立音楽アカデミー(パリ・オペラ座)で上演された作品の中でこの定義に完全に合致する作品は,18作のみであると論じている<上付>(2).  しかしながら,アンソニーがいわば純正なオペラ=バレエであるとみなした18の作品の他にも,18世紀においては「オペラ=バレエ」として認識されていた作品が多数存在しているのである.例えば,本研究において一次史料として使用した文献『バレエ,オペラ,その他の歌を伴う作品』(1760)<上付>4)は,1548年から1758年までにフランスで上演された舞台作品を網羅的に列挙したカタログ的著作であるが,この書が報告するところによると,オペラ=バレエ<上付>(3)に分類されている作品の数は,アンソニーの指摘する数をはるかに上回るものとなっている<上付>(4).  もちろん,(アンソニーらが目指したように)ジャンルとしての特徴を厳密に定義しようとすればするほど,必然的にそこから漏れる作品の数が多くなることは容易に理解される.しかも,ジャンルの定義が厳密であればあるほど,これを論じる際に不要な混乱が回避できることもまた事実ではある.  しかしながら,殊に舞踊史研究の立場からオペラ=バレエにアプローチする場合には,当時オペラ=バレエとみなされていた作品(今日の「オペラ=バレエ」の厳密な定義からは逸脱する作品を含む)をすべて考察の対象とすることも可能であり,かつ必要なのではないかと考えられる.なぜならば,それらの作品いずれにも「バレエ」の要素が含まれているのであり,つまりそれらは,当時の舞台芸術作品における「舞踊」の在り方を示す貴重な史料であるとも捉えられるからである.  また,これはアンソニー自身も指摘していることであるが,18世紀の人々の間では「オペラ=バレエ」についての一般に共有された概念が存在していたという<上付>5).であるならば,(後にこのジャンルの定義がより厳密化したものになっていったとしても)まさにその18世紀の著作において「オペラ=バレエ」と分類されている作品がどのようなものであるのかを調査することは,「オペラ=バレエ」のジャンル史を考える上でも有益な作業となりうるはずである.  以上のような問題意識から,オペラ=バレエを舞踊史学の視点から研究するための基礎作業として,我々は,前述の文献『バレエ,オペラ,その他の歌を伴う作品』をもとに,17世紀から18世紀にかけてフランスで初演されたオペラ=バレエの一覧表を作成することを試みた(表1).  なお,同書が記録の対象としているのが1548年から1758年までに上演された作品であるため,今回作成した一覧表にもこの期間に初演されたものが挙げられている.それ以降の作品に関しては,今後の課題として調査を継続して進めていきたいと考えている. 2. 『バレエ,オペラ,その他の歌を伴う作品』について  『バレエ,オペラ,その他の歌を伴う作品』は,1759年に出版許可を得た後,1760年にパリで出版された書である.タイトルページにも緒言にも著者の名前は記載されておらず匿名となっているのだが,今日ではラヴァリエール公Louis-Ce´sar de La-Beaume-le-Blanc Lavallie`re(1708〜1780)がその著者であるとする見解が一般的に支持されている.  このラヴァリエール公については,19世紀の音楽学者フェティスが,『音楽家列伝』の中で「最も優れたフランスの稀覯書収集家の一人.ヨーロッパで最も素晴らしく貴重な蔵書を有していた」<上付>6)と記している.実際,ラヴァリエール公の没後,彼の蔵書の競売のためにカタログが出版されており<上付>(5),その蔵書がいかに充実したものであったのかを窺い知ることが出来る.  またフェティスは,『バレエ,オペラ,その他の歌を伴う作品』がラヴァリエール公に帰するものであることを記した上で,さらに,「この著作に関して,ラヴァリエール公の他に何人かの協力者がいたことは確かであるようだ」<上付>7)と述べている.確かに,「フランスで上演された舞台作品を可能な限り網羅的に列挙する」という試みの規模から言って,そのような協力者の存在が不可欠であったと考えることは自然であるだろう.ちなみに,『バレエ,オペラ,その他の歌を伴う作品』における記録の信憑性を確認する意味も含め,我々は予備的作業として,1878年に出版されたパリ・オペラ座図書館所蔵作品カタログの記録<上付>(6)と,ラヴァリエール公の著作の記録との照らし合わせ作業を行ったのだが,その際に明らかになったのは(両者の間に若干の異同が認められるとは言え)後者の上演の記録がきわめて網羅的なものであるということである.その点を考えあわせても,第三者による何らかの協力があったとするフェティスの記述の信憑性は高いと言うことが出来るだろう.  『バレエ,オペラ,その他の歌を伴う作品』には,一年ごとに区切られた形で,その年に上演された作品が列挙されている<上付>(7).この記録には,初演の作品も,再演の作品も挙げられているのだが,本研究では初演に注目しているため,再演の情報については一覧表に含めていない.また,同書の中には,台本が作成されたものの,音楽が作曲されずに(ゆえに上演されずに)終わった作品の情報も含まれているのだが,これらについても表1の一覧表からは除外してあることを付記しておく. 注 (1) この論文において,著者アンソニーは,「オペラ=バレエ」というジャンルの定義が従来明確な形でなされてこなかったことを指摘し,その上で,(18世紀の用法を再度検討した上で)このジャンルをあらためて次のように定義している.「オペラ=バレエとは,オペラと宮廷バレエの双方からの要素を含む混合ジャンルである.このジャンルは,それぞれの幕ごとに独立した筋立てを有しており,また各幕に少なくとも1つのディヴェルティスマン−これは歌とダンスから成る−を含んでいるという特徴を持っている」. (2) アンソニーが挙げているのは以下の18作品である(なお,ここでのタイトル,作曲家名,台本作家名の表記はすべてアンソニーの論文に準拠している).     タイトル 初演年 作曲家名 台本作家名 L'Europe galante 1697 Campra La Motte Le Triomphe des Arts 1700 La Barre La Motte Les Muses 1703 Campra Danchet Les Fe^tes ve´nitiennes 1710 Campra Danchet Les Amours de´guise´s 1713 Bourgeois Fuzelier Les Fe^tes de Thalie 1714 Mouret La Font Les Fe^tes de l'Ete´ 1716 Monte´clair Pellegrin Les Ages 1718 Campra Fuzelier Les Plaisirs de la Compagne 1719 Bertin Pellegrin Les Fe^tes grecques et romaines 1723 de Blamont Fuzelier Les Ele´ments 1725 Destouches Roy Les Stratage`mes de l'Amour 1726 Destouches Roy Les Amours des Dieux 1727 Mouret Fuzelier Les Amours des De´esses 1729 Quinault Fuzelier Le Triomphe des Sens 1732 Mouret Roy L'Empire de l'Amour 1733 de Brassac Moncrif Les Graces 1735 Mouret Roy Les Indes galantes 1735 Rameau Fuzelier (3) この書においては,Bal. はBalletの,Op. はOpe´raの略号として使用されており,オペラ=バレエは,Bal. Op.(バレエ・オペラ)と記されている.また,オペラ=バレエの一種であるバレエ・エロイックballet he´ro■¨queについては,Bal. he´r. と記されている. (4) 今回の我々の作業では,(バレエ・エロイックも含めて)計78作品が抽出された. (5) このカタログには以下のようなタイトルが付されている.   Catalogue des livres de la bibliothe`que de feu M. le duc de La Vallie`re. contenant les manuscrits, les premie`res e´ditions, les livres imprime´s sur ve´lin & sur grand papier, les livres rares & pre´cieux par leur belle conservation, les livres d'estampes, & c., dont la vente se fera dans les premiers jours du mois de de´cembre 1783. (6) Lajarte, Th. de (1878) Bibliothe`que musicale du The´a^tre de l'Ope´ra. Catalogue historique, choronologique, anecdotique. 2 vols.   このカタログの著者テオドール・ラジャルト(1826〜1890)は,作曲家として活動した後,1873年よりパリ・オペラ座のアーカイヴの司書を務めた人物である.同カタログは,彼の司書としての活動の一環として作成されたもので,1669年から1876年までにパリ・オペラ座で上演された作品が採り上げられ,それぞれの作品に関して歴史的・書誌学的な情報が付されている. (7) 記載されている情報は,作品のタイトル,ジャンル,幕の数(プロローグの有無を含む),上演日,台本作家名,作曲者名.楽譜が出版されている場合は出版社,出版年,判型.さらに,各幕のタイトルや改訂・再演の情報,台本の出版に関する情報などが含まれている場合もある. 引用文献 1) Anthony, J.R.“Ope´ra-ballet”Grove Music Online. Oxford Music Online. Oxford University Press.   http://www.oxfordmusiconline.com/subscriber/article/grove/music/20378 (accessed September 1, 2016). 2) Anthony, J.R. (1965) The French Ope´ra-Ballet in the Early 18<上付>th Century : Problems of Definition and Classification, Journal of American Musicological Society, Vol. 18, no. 2 : 197-206. 3) Lavallie`re, Le duc L.-C. de La-B.-le-B. (1760) Ballets, ope´ra, et autres ouvrages lyriques, par ordre chronologique depuis leur origine ; avec une table alphabe´tique des ouvrages et des auteurs, Cl.J.B. Bauche, Paris.   なお,同書のリプリント版が1967年に出版されており(Reprinted ed., H. Baron, London),今回の一覧表作成作業に際しては,このリプリント版を使用した. 4) Anthony, J.R. op. cit. p.198. 5) Fe´tis, F.-J. (1863) Biographie universelle des musiciens et bibliographie ge´ne´rale de la musique Tome 5 (2<上付>nd ed.), p.231, Firmin Didot fre`res, fils et Cie, Paris. 6) Ibid. p.231-232. 付記  本研究は,科学研究費補助金「近代バレエ成立過程の美学的・文化史的研究」(基盤研究(C),平成27年度〜29年度,研究課題番号15K02187)による研究成果の一部である. (平成28年9月9日受付 平成28年12月14日受理)