<報告> Visual Basicで作成した採点システムの試作 Development of a correction system using VisualBasic 五月女 仁 子 Hiroko SOUTOME Abstruct  Giving tasks to students during the class is very effective, as it helps students to establish knowledge and provides teachers with a good evaluation material to grasp the students' understanding. However, scoring consumes significant amount of time. In my classes, I make it a rule to assign a task at each lesson. Because the total number of my students is about 400, it inevitably consumes two days a week just to score all of them. While there are methods to automate scoring, marksheet is expensive, and web-based task and scoring system is not suitable for classroom lectures. Furthermore, both types require a certain amount of time to prepare tasks. At the moment, automatic recognition of handwritings is not yet practical either. This study developed a system designed to optimize the scoring of tasks given at classroom lectures and tied it. While the trial result was identified with as many mistakes as manual scoring, the process consumed less time than it was manually done.  Keywords :VisualBasic, scoring system, task, handwriting T はじめに  知識の定着を図るため,また学生の理解度を教員自身が知るために,授業内で学生に課題を課すことは有効である.しかし,その採点は時間的にも体力的にも非常に大変な作業である.私の担当する授業では,毎回必ず課題を課している.全受講者400名程度であるが,その採点作業だけで週2日はかかっている.  ITの普及により,採点を自動化することも考えられる.採点を自動化する方法としては,一般的にマークシートを使う方法や,Web上の問題を解く方法がある.しかし,マークシートは高価(1枚が15円程度)であるため,毎回の課題には使えない.Web上の問題を解く方法は,コンピュータ室で実施する授業ではよいが,座学の授業ではスマートフォンを利用するしかなく,画面が小さいため入力することが困難であることや,スマートフォンの機種の違いから全員が同じ操作とならないため指導することが難しい.更に,両者とも問題の作成に工夫が必要で,選択式や解答群のある穴埋め問題を作成する必要があること,Web上の場合は,問題をタグで作成する必要があるなど問題作成に多くの時間がかかる.筆記の文字データをスキャナーで自動的に読み取り,文字認識をさせて採点する方法も考えられるが,手書き文字は人によって癖があるため,正しく認識することは難しい.商用のソフトも出ているが,会社や大学単位での購入はできたとしても個人の教員で購入できる価格ではない.  筆記試験の採点システムを作成した先行研究として,青木の採点革命<上付>1),島村の採点斬り<上付>2)がある.これらは筆記のデータをスキャナーで読み取り,筆記文字の文字認識をあきらめ,答案を問題ごとに画像として切り取り,人間が目で見て,図1のように手で振り分けるものである.採点革命はHSP(Hot Soup Processor)言語で作成され,問題数が40問まで,結果をcsvファイルに出力でき,メールで各学生に採点結果を送ることができるもので,採点斬りは採点革命をベースに,Visual Basic 6.0言語で作成し,問題数は100問まで,Excelにダウンロードできる.  「課題」と一言で言っても形式は様々で,長文の記述式形式,比較的短い文または単語の記述式形式,作図やイラスト形式や,書き方にも縦書きや横書きなどある.今回,開発システムについて想定した課題の形式は「数と論理」の授業で毎週実施するミニ課題であり,A4用紙1枚横書き,計算問題が主で5〜8問程度のものとした.採点作業とは,課題を採点し,その結果をExcelに保存をするというものとした.  開発した採点システムは,Visual Basic 2013で作成した.先行研究で使われたHSP言語は動作が遅いこと,Visual Baisc 6.0は販売を終了していることから後継のVisual Basic 2013で行った.問題数は50問まで,人数は200人まで可能である.採点画像を切り取り並べる際に20名を1つの画面で見られるものと10名を1つの画面で見られるように2種類用意し,解答欄の大きさによって使い分けられるようにした.先行研究は配点別に割り振る採点手法であるが,毎回の課題では点数を細かく設定する必要がないため,単純に正誤のみとした.更に採点革命にある多くの学生が解答として表記しているものが正解の可能性が高いという正解と不正解の見当は,不正解が多い場合は判断がつきにくいため,上部に正解を表記しそれに基づいて並べた画像データをみることにした.採点の終了後は,全員の採点結果と統計データを表示し,Excelに保存する.更に,採点機能以外の追加機能としては採点済みファイルの作成,個別の採点結果の表示,学生のメールアドレスの情報があれば採点結果画像を学生にメールで送れるようにした.  本研究の目的は,採点システムを構築運用して,課題採点の作業を軽減することである.これによって,学生の理解度の把握,それを踏まえた次の授業の準備に多くの時間を使うことができる.  手作業で採点した場合と開発した採点システムを使って採点した場合と採点時間と採点ミスの比較を行った.採点時間については,採点システムを利用した方が有効であった.しかし採点ミスについては,画像の不鮮明さが原因の場合が多かった.もともとの解答欄が大きい場合,1画面に20人表示の小さい画像にすると画像データが不鮮明になる.そこで,1画面に表示する画像を半分の10人分とし,その分画像を大きく表示することもできるようにした.この結果,時間的には1画面20人分の解答画像データ表示と変わらないが,採点ミスは大幅に減少した. U 採点システムについて 1 開発環境  開発環境は以下の通りである.   OS:Windows 8,Windows 10   開発ソフト:Visual Studio 2013 Professional(Visual Basic 2013)   スキャナー:ScanSnap iX500(自動解像度を使用)   画像ソフト:ImageMagic 2 基本操作の使用手順  採点システムを利用するにあたり,正解が記載されている解答用紙と各学生の解答用紙をスキャナー(ScanSnap iX500)で画像ファイルとして読み取り,そのファイルはjpgファイルなのでImageMagicでpngファイルに保存しておく.そして学生の学籍番号と氏名が入力されたcsvファイルを用意しておく必要がある.  採点システムの基本操作の使用手順は下記の通りである.  プログラムを実行すると,[メニュー]画面(図2)が表示されるので,順次上から進めていく.各画面にある[戻る]ボタンで[メニュー]に戻ることができる. (1) 手順1:正解が記載された解答用紙の画像ファイルを読み込み,学籍番号と氏名,解答欄を指定する @ [解答ファイル]ボタンをクリックして,正解が記載されている解答画像ファイルを読み込む(図3@). A 学籍番号等の@を取得するため,読み込んだ画像において,学籍番号・氏名の記載欄をドラッグし(図3A-1),[学籍番号・氏名欄確定]ボタンをクリックする(図3A-2). B 解答欄の位置を取得するため,読み込んだ画像ファイルの解答欄をドラッグして(図3B-1),[解答欄確定]ボタンをクリックする(図3B-2).これは,問題ごとに繰り返し行う. (2) 手順2:学生の解答ファイルを取り込む. @ [解答ファイルを選択]ボタンをクリックして,学生の解答画像ファイルを取り込む.右側のテキストボックスに取り込んだファイルのファイル名が表示される(図4@). (3) 手順3:学籍番号と氏名が入力されているファイルを読み込む. @ 学籍番号等を表示させる.[学生データ入力]画面が表示されたときに,左上に表示される[学生データ表示]ボタンをクリックして,学生の学籍番号と氏名の画像データを表示させる(図5@). A [名簿]ボタンをクリックして,学生の学籍番号と氏名が入力されたcsvファイルを読み込む.読み込みが完了すると右側のリストボックスに学生のデータが表示される(図5A). B 右側の学生データを@で表示した画像データの右側のテキストボックスに割り振る(図5B).  画面に表示できる学生データは10人までなので,それ以上あれば右上の[次の学生データ]ボタンを押すが,なければ[戻る]ボタンをクリックする. (4) 手順4:問題ごとに採点する  [メニュー]画面で[採点]ボタンをクリックするときに,次の[採点]画面に表示される画像の「大」「小」を選択できる.「大」を選択した場合,画像は大きく表示されるが,1画面は10人まで表示になる.「小」を選択した場合,画像は小さいが1画面に20人まで表示できる. @ [問題]ボタンをクリックして,問題ごとの学生の解答画像データを表示する(図6@). A 正解を参考に,[○]または[×]ボタンをクリックして採点する.中央の[◎]と[×]ボタンは,全て○,全て×と採点することもできる(図6A).  表示される学生のデータは20人分(か10人分)までであるので,それ以上いる場合は,右上の[次へ]ボタンをクリックして,次の学生データを表示させるが,いない場合は@の[問題]ボタンを押すことで,次の問題に移ることができる.問題がなくなれば[メニュー]画面に戻る. (5) 手順5:採点結果と統計データを表示し,Excelファイルに保存する  [採点管理]画面が表示されると,採点結果が表示される. @ [分析]メニューを選ぶと,右側のテキストボックスに統計データが表示される(図7@). A [採点管理]メニューから[保存]→[Excel形式]を選ぶと,採点結果と統計データがExcelに保存される(図7A). 3 採点機能以外の追加機能  採点機能以外の追加機能としては手順5の採点済みファイルの作成能,学生のデータの個別表示機能,手順6のメールで採点結果を送ることができる機能である.この場合送り側が使用できるメールはGmailであり,初めに用意した学生の学籍番号と氏名が入力されたcsvファイルにメールアドレスも入っている必要がある. (1) 手順5:採点済みファイルの作成機能,学生のデータの個別表示機能 @ [採点管理]メニューから[採点済みファイルの作成]を選ぶと,学生の採点済み画像ファイルが作成され保存される(図7B). A 中央に表示される学生をダブルクリックすると,該当する学生のデータが画像とともに表示される(図7C). (2) 手順6:採点結果を学生に送る. @ 送り側のメールアドレスと件名,本文を入力する(図8@). A [送信]ボタンをクリックすると,@で入力された本文の下に採点結果が追加されて,各学生に送信される.[添付して送信]ボタンをクリックすると,手順5のBで作成された各学生の採点済み画像ファイルを添付して送ることができる(図8A). V 実  験 (1) 実験方法  手作業での採点と採点システムを使用した採点について採点時間と,採点ミスについて比較を行った.  手作業での採点と採点システムでの採点の作業手順は図9の通りである.  この手順のうち,@Aは同じ操作なので,採点時間についてはBCの操作について比較を行う.ここで,採点システムのCの作業時間は,上記Uの2(1)〜(5)の全ての操作を行う時間とする.  採点システムについては,手順4で1画面に20人分の画像が表示できる形式(形式A),1画面に表示される人数は10人分になるが,画像の表示を約1.5倍に拡大した形式(形式B)での採点も行った. (2) 実験データ  2015年度後期期末試験の1〜4ページのうち,普段のミニ課題の形式に近い1ページ目を使った(図10).  データは,「数と論理」受講の舞踊学専攻2年生22名,健康スポーツ学専攻2年生86名,合わせて108名で行った. (3) 結  果  図9の手作業採点BとCの合計時間,採点システムBとCの合計時間の比較を行った結果が図11である.手作業採点は54.4分,採点システムは形式Aで30.0分,形式Bで30.7分であった.  採点ミスをした回数を全解答数756(=7問×108人)で割った採点ミス率を比較した(表1).手作業採点の方は0.9%,採点システムの形式Aは3.4%,形式Bは0.5%ある.どの問題で採点ミスが多いかを示したものが図12である.問題7と問題6が多い.形式Aにおける採点ミスの理由を図13である.問題7についての形式Aと形式Bの見え方の違いは図14の通りである.  3つの作業に差があるかFisherの検定を行った.結果は手作業採点と形式Aではp値=0.001<0.05,形式Aと形式Bではp値=5.078e−05<0.05より,有意差が見られた.手作業採点と形式Bではp値=0.547>0.05より有意差が見られなかった. W 考  察  採点時間では,図11からわかるように,手作業よりも採点システムの方が作業時間の短縮が行われていた.採点ミスについては,1画面の表示できる画像データを20人分にしていたが,図12より採点ミスが多かった.問題別にみると問題6と7が多かった.元々の解答欄が大きいものを画像データとしては小さく表示しているため,解答が複雑な式やマイナスの符号がつく場合,画像が不鮮明だと判別しづらいことがわかる.1画面の画像データを10人分にはなるが,画像を大きく表示する形式Bでは,採点時間も増えず,更に採点ミスも手作業よりも少なかった.採点ミスについては,明らかに減少した.これより手作業よりも採点システムの方が有効に活用された.今後は,採点の質が画像の鮮明さに依存することから,画像処理を行い,改善していきたい. X 謝  辞  本研究は,2015年度二階堂奨励研究「座学授業を想定した採点システムの構築と実施について」として補助を受けたものです.二階堂奨励研究に関わるすべての方々に感謝いたします. 引用文献 1) 採点革命:青山学院大学 竹内俊彦 http://www.nurs.or.jp/ ~lionfan/freesoft_45.html (参照日2016年9月13日) 2) 採点斬り:私立島村学園 島守睦美 http://yukikaze.my-svr.com/(参照日2010年11月31日) 参考文献 1) 池谷京子(2014)ひと目でわかるVisual Basic 2013/2012アプリケーション開発入門,日経BP社 2) 茂木良平(2011)ドキュメントスキャナを用いた半動採点システムの構築,情報処理第73回全国大会4-478-4-479 3) NonSoft (2016), http://nonsoft.la.coocan.jp/ (参照日2016年9月14日) 4) smdn:総武ソフトウェア推進所(2016),http://smdn.jp/programming/netfx/tips/send_mail/ (参照日2016年8月31日) 5) 渡邊光太郎(2011)Microsoft Excelによる試験採点システムの製作,城西情報科学研究21巻1号 37-46 (平成28年9月16日受付 平成28年12月14日受理)